『「S&P500」と「オルカン(全世界株式)」は両方持っていた方がいいですか?それともどちらか一方の方がいいですか?』という質問がありました。いろいろな考え方があると思いますが「ア/ン/ス/タ」的解答をするならば『まずはどう思っているのか?』をはっきりさせることには始まらないと思います。
※ここでは、「S&P500」及び「オルカン(MSCIオールカントリー・ワールド・インデックス)」とは各指数に連動するインデックスファンドを表します。
相関関係の観点から考える
それぞれの投資対象国をみると、当然「S&P500」は米国100%ですが、「オルカン」は米国60%程度になります。そして両方を❶:❶で持った場合の米国比率は80%程度になります。分散投資といえば、ポートフォリオ理論でいうところの“リスク低減効果を得るための分散”があります。ポイントは、2つの値動きの方向性を表す数字である相関係数(ρ:ロー)になりますが、「S&P500」と「オルカン」ではρ≧0.8程度となり、かなり似たような動きになることを表しています。

相関係数:ρについては一般的には以下の通り。
・ρ=+1 2つの動きが全く同じ動き
・▲1<ρ<+1 2つの動きがどちらか寄りに似た動き
・ρ=▲1 2つの動きが全く逆の動き
この考え方を重視するならば、分散してもリスク低減効果があまり期待できないので「両方を保有する必要がない」という結論に達するでしょう。
リスクの観点から考える
リスクとリターンの関係は「トレードオフ」です。これは、「高いリターンを望めばリスクは高くなるし、低いリターンを許容すればリスクは低くなる」というものです。リターンと違い、リスクはコントロールすることができると言われています。
これはAとBのどちらかを選択するわけでなく、AとBの割合を調整することで実現します。ここを気にして投資をする人は、リターンよりもリスクを気にしています。普通に考えれば、収益を得るために「リスクを高めたい!」と考えるのではなく、自分がリスクを許容できる範囲で達成できるリターンで我慢しようとなります。よって、この観点も“リスク低減効果を得るための分散”となります。
この考え方を重視するならば、分散してもリスク低減効果があまり期待できなくても自分が許容できるリスクで、満足できるリターンを構築できるのであれば両方を持つこともあるかもしれません。
リターンの観点から考える
分散投資において“リスク低減の分散”以外のもう一つの観点として“収益機会の分散”というのがあります。いまでこそ分散投資というとリスク低減効果の話になりますが、その昔、産業革命後の英国では自国経済の伸びが期待できないことから植民地への投資を行っていました。これが収益機会の分散です(少し余談になりますが、このころの植民地への投資では、当然、ひとりで投資をするとリスクが大きいので、多くの人から資金を集めてその投資額によって収益配分を行いました。これこそが投資信託の始まりでもあります)。
例えば、米国株に期待するリターンが6%、中国株に期待するリターンが10%だとします。米国株に期待するリターンで満足するならばそれでいいのですが、これでは満足ができないのであれば、より高いリターンが期待できる投資をすればいいわけです。米国株より高いリターンを得るために中国株に投資をする方法もありますが、両方に分散して投資をすることもできます。米国株:中国株=❶:❶での保有ならば、期待するリターンは8%になります(借入なしが前提)。要は6%か?8%か?の2択ではなく、6~8%で期待するリターンを作ることができるわけです。
この考え方を重視するならば、より高いリターンを選択したくなる一方、リスクの存在を知っているため、その部分をどう考えるかによります。ただ、分散することまで考えるというよりも2つのうちどちらか一択をする傾向にあります。
「S&P500」を基準に考えてみる

米国株がこれからも上昇すると考えるならば、リターンの観点から「S&P500」だけでいいわけです。『米国株はいいと思うが、ほかの国が上昇した時も逃したくない』『米国株のリスクが耐えられない』というのであれば、米国株だけの「S&P500」だけでなく投資範囲の拡大を行おうという判断になります。その場合こそ「オルカン」の登場という様に考えれてみてはいかがでしょうか?
ただし、「S&P500」も「オルカン」もリスク値にほとんど差がないので、リスクの観点が気になるのであれば、この2つ以外にも債券やREITといったもっと異なる値動きの資産への投資を考えた方がいいでしょう。
両方持つことはいけないことなのか?
そんなことはないと思います。
例えば、ここからまだ米国株が強いと思っているのに「オルカン」しか持ってないと60%分しか享受できないのです。その場合、「オルカン」に「S&P500」を併せて持つことで、米国比率を60%以上に引き上げることが可能になります。いわゆる、コア・サテライト戦略です。この場合は、コア(中核部分)が「オルカン」、サテライト(衛星部分)が「S&P500」になります。当然、コアとサテライトが逆の考え方もあります。どちらがコアで、どちらがサテライトになるかは、先ほどの「リスクの観点」からなのか「リターンの観点」からなのかで変わると思います。いずれにせよ、1つはコアで1つはサテライトなのでそれぞれの比率を考える際にはコア>サテライトで考えることを忘れないでください。
また、両方をどのように持っても米国比率を60%以下にすることはできない点に注意してください。
最後に
このように『どう思っているのか』を明確にすることで、両方持つべきなのか、1つだけでいいのか、その場合はどちらを持つのか、を“自分で決める”ことができます。実は、この“自分で決める”ことこそ、長期投資における投資メンタルの支えに繋がっています。
データが少し古いですが、両方を持った場合の国別比率を画像で掲載します(イメージとしてご覧ください)。
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