将来への不安や周りの話を聞いたりして投資をいざ始めようと色々調べていくと、❶ 銘柄分散、❷ 資産分散、❸ 地域分散、❹ 時間分散、❺ 長期投資が出てくると思います。例えば『つみたてNISA』での投資を考えているならば、この時点で投資信託を活用することになるので、まず❶はクリアできます。ただ、残りの❷から❺にはどのような意味があるかご存じでしょうか?
初心者の方が投資をするにあたり、もっとも避けたい出来事は“投資金額に対して損をすること”ではないでしょうか?こういう事態を回避するために実は❷から❺の役割を正しい知識として身につけておくことが非常に重要になります。
投資期間(長期投資)…❺
つみたてNISAでは「長期投資」が基本です。この「長期」や「短期」といった“投資期間から判断すべきこと”は、そもそも「投資をする」/「しない」ということになります。例えば、3日後に必要なお金をいくら殖やしたいからといってリスクの高い金融商品に投資をしないでしょう。
では“投資期間”は「投資をする」/「しない」の判断に使うだけで、いわゆる「リスク」に対してはなんら判断材料には使えないということでしょうか?これについては、そもそも「なぜ投資をするのか?」を整理する必要があります。

では、「リスクそのものをを減らす」には、どうすればよいのでしょうか?
わざわざリスクをとって投資をしている理由は「お金を殖やすため」ではなく、いずれ「そのお金を使うため」です。だから、その“いずれ”がいつなのかということを明確にする必要があるので、ファイナンシャル・プランナーが投資目的を明確にするためにライフプランを作成しましょうという訳です。
例えば、老後の生活資金のためならば、65歳から現在の年齢を引いた数字が運用できると想定した期間だともいえ、この“想定運用期間内に目標金額を達成できればいい”ということになります。
だから、長期投資から期待できることは、“損をしなくなること”ではなく、“損をしなくなるチャンスが増えること”となります。

損をしない方法について考える(リスクの捉え方)
『現代ポートフォリオ理論(Mordean Portforio theory)』というのがあります。これは、複数の資産を組み合わせることで、値動きを抑えようという考え方を示しています。この理論では、想定しているリターンを中心として、そのリターンがぶれることを『リスク』としており、投資信託の目論見書に書かれている『リスク』とは少し異なります。
各投資信託の目論見書に記載されている『リスク』を踏まえた上での価値が純資産総額(残高)になり、そこからコストなどを引いた後に口数で割って計算した結果が投資信託を売買する時に使われる『基準価額』になります。
この『基準価額』を使って計算するのが『リターン』であり、MPTでの『リスク』とはこの『リターン』を使って算出される数値になります。ここから先は、MPTでいう『リスク』を指して話をしていきます。

時間分散投資(ドルコスト平均法)…❹
これについて、勘違いしている方が多いと思います。これは、購入平均単価を平準化(均す:ナラス)だけであって、投資対象としている資産そのものの『リスク』を下げることはできません。これは、難平(ナンピン)買いも同様です。先述の通り、“投資期間”の効果は時間の観点からチャンスを広げると説明しましたが、“時間分散”の効果は値段の観点からチャンスを広げるというもので、特に“ある程度の下落時”に対する効果が有効な方法ともいえます(一方、上昇に対しては足を引っ張る効果ともいえます)。
※今回の最重要課題は、“いかに投資金額よりも損をしないか”ということなので、足を引っ張る効果については目をつむります。
地域分散…❸
最近では、米国株(S&P500)からオールカントリーというように、投資対象地域の広がりはみせつつあるように思います。どちらを推しているかは、“米国株が世の中で1番上昇すると思っているか?否か?”が選択に大きな影響を与えています。
米国が最も上昇すると思う人にとってオールカントリーを選択することは、米国株上昇から得られるリターンの6割程度しかとれないと判断します。これは、MPTでの『リターン』の計算で説明されている通りなので、考え方としてあっています。
一方、『リスク』の観点からみても、間違いなく異なる動きをするものを組み合わせるので『リスク』を減らすことはできます。ただ、この状態ではいずれにせよ“株式”という資産が持つ『リスク』を減らすことはできていません。
資産分散…❷
資産が持つ『リスク』を減らすためには、その資産と異なる動きをする銘柄や資産を組み合わせるしかありません。
例えば、株式という資産に対してならば、個人向け国債1銘柄でも効果があります。ただ、債券であってもデフォルト(債務不履行)のリスクなどがあるので、株式同様、銘柄分散をしておくことで不安要素を減らすことにつながります。
資産を組み入れる際、単純に値動きが異なるという観点から相関係数だけで判断してはいけません。組み入れ資産を選択する際は、資産としてどうなのか(利益が出そうなのか?特有のリスクはないのか?)、その資産が取引されている市場規模はどうなのか(常に流動性があるのか?過剰流動性の状態になっていないか?)なども併せて考える必要があります。“過剰流動性”とは、2013~2014年頃、MLP(マスター・リミテッド・パートナーシップ)という「エネルギー版REIT」と呼ばれたりした資産が流行ったことがありましたが、特に日本からの資金流入が一機にかつ大量に起こったことで、上昇時は想定より高く上昇したものの、一転して下落すると想定より大きく下落するといったMLP市場そのものを自分自身で壊してしまった…ということがありました。
まとめ
“投資金額に対して損をすること”を避けるために何を重視すればよいのかを説明してきました。
もう一度、整理をすると、まず『投資期間』はリスク資産への投資という扉を開く鍵としての役割が大きいということです。次に、損を避けるために重視すべきことについては、1位:『資産分散』、2位:『地域分散』、3位:『時間分散』の順に注力すべきです。
だから、SNSで行われている「つみたてNISAにおけるS&P500 vs オルカン」の議論だと議論の順が違っていたり、そもそも議論の土台にすら上がっていない分散が存在しているということです。
初心者の方が投資をする上で、投資金額より損をするという失敗の可能性をできるだけ下げておきたい(利益最優先ではない)と思うならば、運用面、コスト面を考慮しても“バランス型ファンド”が最適であり、それで十分だと私は思っています。ただし、分散の仕方か考え方というのがあるので、その辺には注意を払う必要があります。

初心者の方の場合、評価額が下がるとどうしても売却したくなったり、つみたて投資自体を止めたりしたくなります。それは損したくないという投資メンタルによるものです。だからこそ、価格変動を抑えることが重要であり、そのためにリターンをある程度、犠牲にしても取り組むべきことです。ただ、このようなスタンスで資産形成に取り組むべきとはいえ、そのためには目的の金額を達成するための時間と想定リターンが分からないと計画をして取り組めないともいえるわけです。
資産形成に関しては、なるべく確度がより高い方法(リターンだけでなく、投資を止めないということを含めて)で行うべきで、それもどのような人であっても特殊なスキルなどを必要としない方法であることこそ重要なのです。
今回ような投資の視点を基本スタンスと把握した上で、それでも株式だけ投資をするのか、いろいろな資産にまで投資対象を増やすのかなどを考えるように心がけましょう。
ちなみに現状であれば、国内外の株式、債券、REITで資産分散は十分だと思います。また資産形成以外の資金については、もっとリスクをとってもよいとも思っています。投資資金全額をここで説明した方法で必ずやるべきだとは思っていません。