前回は投資期間を整理したうえで、短期投資におけるリスクコントロールについて説明をしました。さて、老後2,000万円問題などが話題になり、将来の資産形成を促すため、政府としては「つみたてNISA」などによる資産形成を推奨しています。この「つみたてNISA」を活用した資産形成の場合、投資信託を活用することになりますが、そうなると株式投資でのトレーディングとは別の考え方を用いる必要があるわけです。そこで、投資信託を活用した中長期投資におけるリスクコントロールについて説明していきたいと思います。
中長期投資におけるリスクコントロールとは
投資信託を活用した資産形成に代表される中長期投資ですが、トレーディングのような金融市場への出入りを必要としません。なぜならば、トレンドを追って売買判断をするのではなく、投資する資産の本源的価値の成長を捉えようとしているからです。そもそも、中長期投資における前提条件は「(長期間にわたって)相場を当て続けることはできない」ということなので、いつ下落するかもわからなければ、いつ急騰するかもわからないということです。だから、中長期投資においては、“常にマーケットに居続けることが最善策である”ということになります。
常にマーケットに居続けるということは、常に投資資金をリスクにさらすということになります。ここで、投資家心理の話を思い出してもらいたいのですが、(短期・中長期投資にかかわらず)ヒトは常に合理的な判断(売買)ができないため、投資で失敗してしまうケースが多くあるということです。だからこそ、中長期投資の場合、常に投資資金をリスクにさらしていても精神的に平穏でいられるようなリスク管理方法が必要になってきます。
中長期投資におけるリスク管理法(分散投資)
ここまでを整理すると、中長期投資ではマーケットに居続けることで投資資金を常にリスクにさらすため、投資家心理を揺さぶるレベルでのリスク(特に下落時)を気にする必要があるということです。
だから極力、価格変動という「リスク」を減らすような投資手法を実行することが有効で、資産や地域といった異なる資産を組み合わせて運用する分散投資となるわけです。ここまでは、みなさんもなんとなくご理解いただけるかと思います。ただ、これは投資をはじめる際の選択方法でしかありません。問題はここからです。みなさんが見落としがちというか、あまり重要視していないのが運用中のリスク管理法です。SNSなどでもほとんど話題になりませんが、運用中のリスク管理法というのが「リバランス」になります。
中長期投資におけるリスク管理法(リバランス)

中長期投資では資産価値の成長を狙っているとはいえ、長期間相場にいれば想定から外れる局面が必ず出てきます。例えば、資産Aと資産Bに資金の半分ずつを投資したとしましょう(資産A=資産B)。その後、資産Aは上昇、資産Bは下落したとすると、このポートフォリオにおける資産Aの割合は資産Bの割合よりも大きくなっています(資産A>資産B)。各資産の本源的価値は変わらないのに価格がズレたとするならば、価格は時間と共に適正な位置に戻ると考えるべきです。このような考え方を「平均回帰」といいます。話を戻しますが、いままで下落した資産Bは元の位置に戻るために上昇、いままで上昇していた資産Aは元の位置に戻るために下落することになります。だから、いまリバランス(元の比率に戻す行為)をすることで、割合が高まった資産Aを元に戻す(割合を下げる)ことになり、結果的に資産Aへ投資したことに対する値動きの大きさ(リスク)を下げることになります。これは資産Bにおいても同様です。
ここで「資産Aがこれから下落するのであれば、売却すればいいのでは?」と思う方がいるでしょう。今回の話の前提条件と何のためにこの投資法を選択したのかを思い出してください。❶「相場を当て続けることはできない」と、❷「投資金額全体の値動きを抑えるため異なる動きをするものを組み合わせた」だったはずです。先程の話に戻ると、資産Aは平均回帰の考え方に従えば“これから下落する可能性が高い”といっただけで、“いつ起こるか”は別の話です。そして、いま利益が出ているからといって売却してしまうと、資産Bと異なる動きをする資産を失うことになるため、仮に資産Bが更に下落していった場合、それを補完する動きがないということになります。
ちなみに、最初の比率(資産A=資産B)から一切、リバランスを行わないバイ・アンド・ホールドならばどうなるでしょうか?バイ・アンド・ホールドの場合、上昇した資産Aは、ポートフォリオ全体の割合で大きくなる一方、下がった資産Bの割合は小さくなっています。平均回帰をするのであれば割合の大きい資産Aはそのうち下落することになり、割合が小さい資産Bはそのうち上昇することになるので、先ほど説明したリバランスのメリットを捨てるということです。
このように、リバランスを行う理由はパフォーマンス上昇につながるというよりは、リスクを抑えるという効果があるからで、「リバランス」という行為は重要になる訳です。
わざわざ長期分散投資を行っているのは“リスクを抑えながら運用したいから”だったはずなのに、分散投資をすると決めた入口部分でリスクを抑えただけで、リバランスをしないということは運用中のリスク管理を怠っているにすぎません。なので、リスク面を意識して投資をしたのであれば、リバランスをしてポートフォリオ管理を行った方がよいでしょう。とはいえ、どの程度ズレたらリバランスをすればよいか?という問題があります。それは「頻繁にやりすぎると売買コストがかかる」からです。正直、どの水準になったらやるべきかというのはわかりません。なぜならば、分散度合いや取引している金融機関の手数料体系によって違うからです。
次回に続く。。。