前々回は投資期間を整理したうえで短期投資におけるリスクコントロール方法を、前回は中長期投資におけるリスクコントロール方法について説明をしました。最終回とする今回は、分散投資によるリスク低減効果以外のリスクコントロール方法や商品性という観点から注意すべきリスクについて説明します。
その他のリスクコントロール方法(リスクパリティ戦略)
値動きが異なるものを組み合わせることで全体の動き(リスク)を抑えるという考え方ではなく、それぞれのリスクが一定となるように組み合わせる「リスクパリティ戦略」というものがあります。
この戦略でのポートフォリオ(組み合わせた結果)は、一般的に価格変動率の大きい株式(図中:黄色)の比率が低くなり、変動率の小さい債券(図中:青色)の比率が高くなるので、かなり保守的な運用になる傾向があります。
この戦略が好まれるのはリスクに対する説明しやすさです。一方で少し難しい話になりますが、現代ポートフォリオ理論(MPT)でのポートフォリオでは平均回帰を期待しますが、この戦略では平均回帰を捨てる行為になる点や、株式が暴落する局面ではさらに株式を売却するというスパイラル状態を引き起こしてしまう点が問題としてあげられます。

投資における広義のリスク
前回、前々回で話をしてきた「リスク」とは、期待するリターンからのズレを指していました。これは、MPTにおいて金融商品のリターンが正規分布に従うとし、統計学を用いることで標準偏差を「リスク」としていたからです。
ところで、投資信託の目論見書をみると一般的には次の❶~❹の「リスク」があると記載されています。
❶ 価格変動リスク
❷ 流動性リスク
❸ 信用リスク
❹ 為替変動リスク
ここ数年の世界情勢を振り返ると、❶~❹が分かりやすく発生したので以前よりリスクの認識ができたと思います。例えば、ロシア・ウクライナ問題によって、ロシア債券や株式は❶と❷、❹が同時に発生し、MSCIやJPモルガンといったインデックスを発表している企業がロシア債券をインデックスから外す動きや、登録国はロシアでなくても実質的にロシア企業の証券について評価上「0」にするという事態になりました。最近では、米シリコンバレーバンク(SVB)破綻からそれまで経営不安があるのでは?とくすぶっていたクレディ・スイス(CS)に飛び火をしたことで、金融機関の有価証券(株式、債券)は❸、❶、❷が同時に起こりました。これらは期待するリターンにならないという「リスク」とは直接的には違うことがわかります。とはいうものの分散投資をすることで「ロシア」や「金融機関(銀行)」に絡んだものだけに投資をしていたのでなければ、大きな損失にはならなかったということも感覚的に理解できるかと思います。
このようにMPTでいう「リスク」とは違う「リスク」がある訳ですが、一般的に記載されていること以外に注意すべき点について少し触れてみます。
債券投資におけるリスク
債券の商品性の説明をみると、❶国や企業などの発行体が、投資家から資金を借り入れるために発行する有価証券、❷満期が定められていて、満期となる償還日には額面金額が投資家に払い戻される、❸投資家は、発行体に対してお金を貸す代わりに利子をもらう❹運用期間中の債券売買は時価評価で行われる、❺海外債券の場合には為替変動リスクがある…という感じでしょうか。ただ、このように教えられたが故に、債券の特殊性があることを知らない人(というか気にしていない人)が多いと思われます。
債券の特殊性
基本的な債券としては先述の通りですが、なかには但し書きというか条件が付与されている債券があります。例えば、「繰上償還(本来、満期までもらえたはずの利息がもらえなくなるリスク)」「永久債(償還されると思っていたら償還されないリスク)」「転換条項(別な金融商品になるリスク)」「弁済低順位(破綻時に元金が減額や返済されないリスク)」あたりが主だったものでしょうか。
エマージング投資だと特に信用リスクが気になるので一応、格付けをみたりしますが、発行体の知名度が高い(信用力が高いとは別)と販売する方も投資家もリスク説明をしたとしても「まぁ、大丈夫だろう」って思ってるでしょうし、「Too big to fail(大き過ぎて潰せない)」という言葉も根拠のない心の支えになっていると思います。SVBから飛び火したCSのニュースが出た時に、私も「どうせ潰さないだろう…」って思っていました。実際、潰れはしなかったものの、AT1債は記載されていた条項に従って返済されないという結果になってしまいました。元々CSに関しては、昨年の夏には経営が大丈夫なのかといわれていましたが、ほぼほぼ1年が経過し、それもトリガーがCSのではないのにあのような結果になったわけです。
これ以外にも、オプションなどを活用した「仕組みが入っている債券(仕組債)」というのもよく内容を確認した方がよいでしょう。
投資信託におけるリスク
投資信託においても、複数銘柄や資産に分散しているので個別銘柄への投資より安心でミドルリスク・ミドルリターンの金融商品という説明にはやや乱暴さを感じます。投資信託は少額から投資ができてプロが代わりに運用してくれるので初心者向き…という説明をみかけます。商品性の説明としてはある意味あっていますが、“プロの運用法=簡単(単純)”とは違います。
例えば、単純に株式を買って売るというものだけではなく、先物取引やオプション取引を使うもの、レバレッジをかけるもの…など、いろいろな投資手法が内在される場合や仕組債1銘柄だけに投資をするような債券ファンドも存在しています。
最後に
要は単純に金融商品(債券、投資信託)の名前だけで判断してはいけないということなのですが、この辺の説明をあまり聞いたことがないですし、投資本でも見かけません。「セールスがちゃんと説明しないから…」と思ったのであれば、「ネット証券での取引だったら大丈夫!」ということになるのでしょうか?旧来型の対面型証券だと、コストは高いし、何かを売りつけられそうだから…という意見があるのも分かりますが、だとするなら、失敗しないためには“説明を自力で理解する程度の知識は必要だ”ということです。
ウォーレン・バフェット氏が「自分が知らない銘柄は(どんなに有望と言われていても)買わない」というように、知らないならば買わないという勇気(判断)が必要ですし、投資をするにしても最悪の事態を回避すべくリスクコントロールが必要になるという訳です。そこで分散して投資をするという話になる訳ですが、必ずしも効率的なリターンを得ることを主眼としていない分散もあることはご理解いただけたでしょうか?
リスクを使った一般的な指標として「シャープレシオ」というのがあります。この指標は「値が大きければよい」と説明しているのを見かけます。では、シャープレシオを計算したところ“5”となった場合、その扱いをどうするのか?原因は何と考えるのか?ということに気付けるか、そもそもどんな投信(資産)でもシャープレシオを使えばよいのか、過去のリターンを使った場合の不具合をどう考えるのか、という課題点がいくつもあります。この辺についても説明されませんよね?
こういう部分こそ、SNSの情報やいわゆる投資本だけでよいのか?ということです。猫も杓子も「インデックスファンド」という昨今の風潮もコストという誰でも解ることを使っているだけで、本当にアクティブファンドが悪いのかという点は上手く説明しているのをほとんど見たことがありません。こういったさじ加減(温度感)こそが『プロの講義を受けた方が手っ取り早い』と言っている理由なのです。
