先週、藤井聡太竜王・名人が八冠全制覇となり、ここで話題となっていたのが「残酷なまでの大逆転劇」でした。この話題がニュースで流れるなか、どことなく「投資に似ているなぁ…」と思うことがありましたので、それについて書いてみようかと思います。
ちなみに私自身、将棋の駒は最低限のルールを知っている程度で、手筋とかはまったく学んだことはありません。
時間に追い詰められた状態での判断
今回の王座戦第4局で、藤井さんが対戦相手である永瀬拓矢 前王座に放った122手目(盤面中央に銀を放った手)によって、ほぼ負け状態から大逆転へとつながりました。この時、1分将棋(1手を60秒未満で指す)という状況だったのですが、この“時間がない”という状況下では、プロ中のプロでも致命的な指し間違いが起こるということを自分の目で確かめることが出来たのです。当然、その前に藤井八冠の仕掛けがあってのことなのですが、それにしてもプロが致命的なミスを犯すということに「将棋って凄いなぁ…」って感心してしまいました。
将棋素人の私が思うプロが指す「将棋」のイメージですが、一進一退の攻防が繰り広げられた結果、最終的に詰められて勝敗が決まるんだろうという感じで、あんなたったの1手で形勢逆転するなんてことはありえないと思ってましたから。

スポーツの世界でもプロ同士の試合だと「敗者のゲーム」などと言われ、物凄い攻めをすることよりも“ミス”を犯した方が負けるとされています。とはいえ、スポーツならば一瞬の判断で一気に形勢逆転というのはイメージ沸くのですが、たとえ1分しか考える時間がないとはいえ、プロが常に数手先まで頭で考えているわけで、たった1手が大逆転に繋がるなんて…というのが素直な感想です。
このように“時間がない状態ではプロでも間違う!”という点は、投資の世界でも全く同じです。時間がない時の判断は大抵間違っていることが多く、これこそヒトが陥りやすいミスなのです。投資方法を学ぶのも大事ですが、そもそもヒトの行動に由来する行動経済学を知ることは大事だと思います。
プロの世界での戦い
さてこの勝負ですが、トップのプロ棋士でもありますが、そもそも将棋なので1対1での戦いです。対戦相手が分かっているからこそ、相手の指し方を研究して対処できることはありますが、当然、想定通りにいかないことがいくつもあって、そういう時にはこれまでの知識や経験などから判断をして対応しています。
これが1対1でなく不特定多数を対戦相手にしたらどうでしょう?1人ひとりを分析するなんてことは無理なので、何を根拠に研究して対処すればいいかなんて、考えることすらやめてなりたくなりませんか?
先ほど「行動経済学を知っておいた方が良い」と話をしましたが、「相手の行動が分からないならば、これを学ぶのは無駄では?」という質問をたまにいただきます。ここで「行動経済学」を学ぶ理由は、投資のような需要と供給で決まるようなことを相手ひとりひとりの行動パターンを考えなさいと言ってるわけではなく、自分の癖(行動パターン)を知っておきなさいということです。そして、知っておくだけでよくて、何か正解があるわけでもありません。
投資の世界は、将棋やスポーツなどと異なりプロとアマが混在する世界で、プロとアマでは時間の流れと法律的には同じルールでやっていても、資金量や情報量など絶対的に違うことが数多く存在しています(インサイダー情報を持っているということとは違います)。だから、藤井八冠のように仕掛けをされていなくても、知らないうちに相手の術中にはまっていることは沢山あることを知っておくべきで、その際に自分がどういう行動をしそうなのかを知っておくべきなのです。
最後に
いま「投資をしなさい!」とはいいますが、金融市場にはプロとアマが混在していることについての発信が圧倒的に足りないと思っています。だから、無策とまで言わないにしても、知識が不十分なままプロに対して勝負を挑んでいるような人も数多く存在し、その結果は、大きな損をして資産ではなく後悔だけが残っているようです。
格闘技で例えるならば、「賞金が欲しいならばそれなりの闘技場で戦わないとねぇ~」程度のアナウンスしかなく、普通の闘技場なのか、はたまた地下闘技場のような命まで賭けた勝負なのかの説明がないのです。
生命に例えられると「そんな危険な事はしないし!」と即答できるのですが、お金だと「“いのち”の次に大事な“お金”」と言われる割には、“いのち”よりも安易に考えてしまうようです。

投資をしないというのも、いまの日本の現状ではデメリットが多すぎます。
将棋もプロじゃなくても楽しめますし、幸いにして、投資も(楽しむというと語弊があるかもしれませんが)プロでなくても十分、資産形成をできる方法はあります。将棋の駒のルールを覚えるのと同じで、最低限必要な“正しい”投資の知識を身に付けて始めましょう!