日本経済新聞電子版(2023/5/31)で『投資信託「多すぎ」にメス 野村アセット、30年に半減へ』という記事が出ていました。この元ネタですが、野村アセットマネジメント(以下、野村AM)が2023年4月3日に発表した「プロダクトガバナンスの強化」というNews Releaseになりますが、野村AMでは2022年4月にプロダクト・ガバナンス部を新設しており、ちょうど1年経過したので何らかの発表をやりたかったのだろうと推測します。
さて、そのNews Releaseの内容ですが、同社運用の約700本の公募投資信託(2022年末時点)について順次評価を行い、その評価によっては信託報酬の見直しや償還、併合などを進めるというものです。そして、その結果を踏まえ2030年までには(定期償還を分含めて)同社既存ファンドを半分程度まで絞り込まれると想定とのことでした。
日本の投資信託事情
いまの日本の投資信託事情をみると、公募投資信託は約6,000本近く存在しています。世界的にみても資産規模に比べて本数が多いことから商品管理が不十分なのではないか?といった意見も出ており、2022年に金融庁が公表した資産運用業高度化プログレスレポートでもファンドの本数の高止まりについて問題視されていました。
だから、ファンドの本数を減らすことができれば、手間やコストが抑えられ、パフォーマンスの向上に経営資源を集中させることができるだけでなく、信託報酬の引き下げや情報開示の充実につながる可能性もあるので、それを野村AMでは部署を作って先陣切って皆様のために頑張ります!とやっている訳です。
コストという分かりやすい方法でパッシブ運用(インデックスファンド)に舵を切った三菱UFJ国際投信とはまた別の方法で顧客に寄り添うスタンスをみせたということですね。

※QUICK資産運用研究所調べ。対象は2023年3月末時点で現存する国内公募投信(ETFとMRFを除く)。残高平均は残高をファンド本数で割ったファンド1本あたりの残高
さて、この記事に対するSNSの反応ですが「気付くの遅すぎ!」「整理よりもテーマ型投信を親会社の意向で設定しないほうが重要では…」「マイナスなのに強制償還して、また顧客が被害被るの?」など微妙な意見が多くみられます。
この辺について、ファンドの導入経験を踏まえて私見を述べてみたいと思います。
SNSコメントに対する私見(気付くのが遅すぎ!)
まず、「気付くのが遅い!」ですが、この話自体はかなり以前からありました。そして、それを何とか早急に実現したかったのは運用会社です。運用会社としては、なにかとコストがかかる割に時間経過とともに運用残高が増えない(≒収益が見込めない)状況だったからです。当時を振り返ってみて、残高が増えない主な理由を4つあげてみました。
❶ 設定が10,000円スタートなため、それ以下の基準価額になっているのは悪いファンドというレッテルを貼られる
❷ 設定が10,000円スタートなため、それ以上の基準価額になっているのは割高なファンドというレッテルを貼られる
❸ 旬のテーマでなくなると、セールスも投資家も興味が無くなる
❹ 新しいものは良いモノ(旬のモノ)という誤認識 など
ここでまず気にしてもらいたいことは、❶から❹の理由のすべてがセールスも投資家も“投資リテラシーが低かったことで引き起こされた問題”だということです。
例えば、❶❷に対する正しい理解がないことから基準価額が10,000円に最もかつ確実に近い時点は『新規設定時』となるわけです。設定後であっても基準価額が10,000円近辺というのもありますが、その時のヒトの考え方は「設定から時間が経っているのに、いまだ10,000円近辺だなんてパフォーマンスが悪い!」という判断をくだすので、この時点ではもう買わないわけです。だから❹に目移りしやすく、❸に反応しないのです。
基準価額がなぜ10,000円未満になっているのか?仮に2,000円台でも上昇しない理由があるのか?などを見極める力が必要だということです。たしかに「旬のテーマでない」≒「販売会社が勧めない」は否定しませんが「勧められないから知らない…」というのとは違うことを認識しましょう。
SNSコメントに対する私見(…テーマ型投信を親会社の意向…)
今回の記事が野村AMだったから「…テーマ型投信を親会社の意向…」という意見になったと推測します。しかし、私の野村AMのイメージは、『親会社との関係が強く残っている割には、かなり以前から専用ファンド化(野村證券でしか取り扱われないファンド)を開放してニュートラルな立ち位置でいようとした運用会社』というものです。地味ではありますが、証券会社を母体とする老舗運用会社のなかでは、一番真っ当ではないかと思います。
さて、テーマを欲しているのは親会社にあたる販売会社だけかというとそうではありません。例えば、独立系や海外の運用会社であっても国内外の動向を調査したうえで、テーマ型を提案するケースだって当然あります。そして「販売しやすいからテーマ型があるんじゃないの?」という意見は裏を返すと、そのテーマを欲しているのは大衆だということです(敢えてここでは「投資家」という言葉を使わず、もっと広い範囲ということで「大衆」としました)。
もし、テーマ型ファンドが存在しないのならば「顧客の意見を聞いてくれない!」っていうことになりませんか?最初は「要望」であっても、その声が多く出てるにも関わらず対応しないと「要望」は「クレーム」へと代わるわけです。とはいえ、満を持してテーマ型ファンドを出すころには…というのがよくあるパターンですけど。。。
また、何も特徴がないような売れないファンド(敢えて「人気がない」としませんでした)だと設定当初から運用残高が不足するような事態になれば、本来、行いたいような運用ができないどころか、ファンドそのものが設定されないという可能性だってあるわけです。だからといって、無理やりテーマを見つけてファンドを設定しているわけではありません。金融商品であっても“商品”である以上、ウリがなければ売れないのです。だからこそ、この見分けにおいても投資に関して無関心ではいけないということです。
SNSコメントに対する私見(…マイナスなのに強制償還して…)
ここまでの話で「それでも運用会社がやりたかったんだったら、運用会社主導でとっととやればよかったじゃん!」となるのでしょうが、それができなかったのは「…マイナスなのに強制償還して…」というこの意見に集約されています(統合や合併、償還の対象となるファンドは“残が少ないこと”が最大の理由になりますが、その背景はやはり“パフォーマンスがさえない”となるのが一般的です)。
最近でこそ「ファンドは運用会社の商品」という認識が以前よりできてきましたが、少し前までは、先述の“親会社とのイメージ”が強かったこともあり、ファンドの運用成績の悪さは販売会社の問題だと認識されていました。販売会社からしてみれば、勧めたのは確かですが運用成績の文句を言われても…となるわけです。それって、スーパーでA社のお菓子を販売したところ、「(思ってた味より)まずい!」って製造元のA社にクレームするのでなく、販売したスーパーに入れるような感じです。

請求目論見書をみると「繰上償還実施には信託銀行との協議の上…」と記載さ入れているのが普通で、販売会社についての記載はないものの投資家の矢面に立つ販売会社の意見をまったく無視できないのは感覚的に理解できるかと思います。だから「お宅の理由で、寝た子を起こさないでよ!」ってことで、運用会社が併合や償還をさせたくても販売会社の意向もあって実施できないってことがあったわけです。
とはいえ、販売会社が止めてくれと要望を出す背景には、投資家の知識不足(認識不足)ともいえると部分が全くないとはいえないと思います。
野村アセットマネジメントの挑戦
野村AMでは、2023年5月29日に「ファンド・レビュー・レポート」を公表しました。これが先述した「同社運用の約700本の公募投資信託について評価」の第一弾です。「パフォーマンス」「商品性」「情報提供」という観点から3段階で評価しています。しかし、自社ファンドを自社で評価することは以前からしていたと思いますが、それを世に晒すというのはある意味、リスク?(勇気ある行動)だなと思いました。
このようなことができるのも、これまでの状況と違い、ある意味、ファンド併合や償還などが運用会社主導でできるような環境になってきたということでしょう。そして、これが上手くいけば、ほかの運用会社が追随し、結果的に投資家にとって大きなメリットにつながるかもしれません。とはいうものの、環境配慮など良いことを行っているはずなのに、それが逆にコストとなって続かないということも往々にしてあることです(私も以前、ファンドにおけるRR分類のパンフレット記載というプロジェクトで、投資家にとって良いことだったのですが、最終的にとん挫した経験があります)。
いずれにせよ、始まったばかりなので、これからも継続できるのか?どのように運営していくのか?というのは、運用会社任せでなく私たち投資家も注視していく必要があると思います。だからこそ、投資家である私たちも無関心でなく関心を示す必要があり、そのために正しい知識が必要になるわけです。
おまけ
テーマ型でもパフォーマンスが良ければ「良いファンド」となり、その逆になると「悪いファンド」扱い、さらに悪いレッテルが貼られると誰でも解りやすい「コスト」を取り上げて否定される・・・といった投資家の考え方そのものを見直すことが大事ではないかと思います。
若者を中心にネット証券が一般的になりましたが、対面販売によるセールスがいないことで「騙される?」可能性が減ったものの、そもそも何を知るべきかが分からない(気付かない)→(安易に)SNS経由で大衆意見を参考にする…といった新しい課題にぶつかっていると感じます。だからこそ、正しい(難しいではない)金融知識が必要になるわけです。
『肥満解消に、医者に行って診断してもらうとお金がかかるから「〇〇〇ダイエットがいい」ということでやってみるも…』って、普段の生活では何度も失敗していることを投資においても同じようなことをしていないでしょうか???
